<本編と本作品の分岐点 ~ ifの始まり ~>
先々代女王・トゥルビヨンの眠りを覚ますため、彼女の6人の孫との思い出の品を与えつづけたおジャ魔女達。
最後の一品・『家族の肖像を描いたタペストリー』を渡した事で、先々代女王の眠りは覚める―
―かに、見えた。
しかし、他にどんな絶望が彼女を蝕んでいたのだろう。
トゥルビヨンの眠りは、覚めなかった。
おジャ魔女達の力は、ついに・・・彼女を眠りから覚まさせる事が出来なかったのだ。
皆、立ち尽くしていた。
悲しみのイバラ、その最後の一本にくるまれた先々代女王を見上げて。
もう、何も出来ない。 自分たちの力は、やれることは、もう、何一つ・・・残っていない。
誰もがそう感じていた。 だが、それを言葉に出すことも、そんな表情を敢えて見せ合うことも・・・しない。
それをやってしまう事で自分たちの無力さを公にしてしまわないようにするのが、彼女等の精一杯の抵抗だった。
しかし、一人。
強固な悲しみの鎧を纏う先々代女王を見て・・・現魔女界で最高の魔力を持つ小さな魔女・ハナは、決意する。
『・・・ハナちゃんが、先々代の女王様に、直接言ってくる!! 人間界は、そんなに悪くない!
辛いことばっかりのところじゃない!
ハナちゃん、魔女だけど、どれみ達とたった3年一緒にいただけなのに・・・』
叫んだハナを、どれみは制しようとした。 だが、ハナはそれを挟む余裕を持たせずに一気にまくしたてる。
『すっごく、すっごく・・・楽しかったもん! 大変な事もあったけど、みんな、優しかった。
すっごく、優しかった。
ハナちゃんが、教えてあげる! 人間は・・・悪くなんか、ないから!!』
突然、ハナの魔力が己の全身を淡く包む。
丁度シャボン玉に似たようなものの中に入っているような形で、どれみ達が見ている前・・・
ハナはゆっくりと、イバラに巻かれて眠る先々代女王の前に浮き上がって行く。
『ハナちゃん! ・・・何するの!??』
どれみは一人我に返り、ハナのその行為の意味が何なのかを知っているように叫んだ。
5人の魔女見習いの後ろで佇む、現魔女界の女王もまた、その様子を見てハナのやろうとしている事の意味を理解した。
『・・・7つめの、贈り物は・・・ハナちゃん自身だから』
その声に、どれみを除く魔女見習い4人の目が見開かれる。
言葉はとっさには、出てこなかった。
『ハナちゃんが、魔女として、人間界で暮らして・・・ たくさんの人にもらった、優しいこころ・・・。
そして、どれみ』
どれみは、手にしていたポロンを落とした。
『はづき』
呼ばれて、はづきは身を強張らせた。
『あいこ』
あいこは、右手を伸ばした。 ・・・それだけで愛しい娘に届くのかは、無論、本人も分かっている。
『おんぷ』
おんぷは、魔女服の裾をギュっと強く掴む。 ・・・平静を保とうとするのには、さすがのおんぷも限界がある。
『ももこ』
ももこは震える声で、『ハナちゃん・・・?』と呼びかけた。
『・・・みんなにもらった、お母さんの愛。 とってもあったかい、人間のこころ・・・。
それを、どうしても分かってもらいたい。 ハナちゃん、もっともっと、人間界と、仲良くなりたい!!
たくさんの人と、お友達になりたいから!!』
ハナは、笑っていた。
その双眸から、ポロポロと大粒の涙を零しながら・・・。
『ママ・・・
・・・ハナちゃんは大丈夫。 待っててね。
ハナちゃんが戻ったとき、魔女界も人間界も、先々代の女王様も・・・
みんな、幸せになってますように』
大きく手を振った、ハナ。
その姿に唯一声を出せた者は・・・
『ハナちゃん!! ハナちゃぁぁぁん!!』
かけよったどれみが、イバラの魔力に弾かれて転ぶ。
そしてどれみが顔を上げた時・・・ ハナの姿は、光と共に先々代の女王の胸の中に、沈んでいった。
皆の喉が潰れそうになった次の瞬間―
― 光が、満ちた。
それは先々代女王、そして悲しみのイバラ・・・ いや、呪いの森全体から発される、魔力の光。
七色の光沢を放ったそれは、間近にいたどれみ達には眩しすぎて全然分からなかったが・・・
遠く、呪いの森を見ていた魔女達には、それだけですべてが理解できた。
呪いは、解けたのだ ― と。
悲しみのイバラは粉になって風に散り、 呪いの森は姿を変え、花と緑が満ち溢れる幸せの森へと生まれ変わった。
そして。
白いマーガレットの花に支えられ、埋め尽くされるようにしてそこにいたのは・・・
幸せそうな表情を浮かべ、眠りに落ちている、どれみ達の愛しい娘だった。
すべての呪いは、解かれた。
魔女界に、平和が戻った。
・・・そのかわり、 ハナという小さな少女が、遠い眠りにつくことになったのだった。
魔女界の女王、そして魔女界一の医者であるマジョハートでもってしても、
ハナの眠りがどのようなものかは、断言できなかった。
ただ眠っているだけ、という姿はハッキリとした事実として皆の確認できるところにある。
眠っているのなら、いつかは起きる。
だが、その『いつか』が ― 全く分からなかった。
『そんな・・・!! 100年先かもしれないってことですか!?』
どれみの声に沈痛な沈黙だけを返し、女王はマジョリンを呼ぶ。
呼ばれたマジョリンは『例の物』で意を解し、その箱を空けた。
中には、5色の水晶玉が入っていた。
どれみ達には、およそ2年ぶりに見る事になる、魔女の水晶玉。
『今・・・こんな事を言うのは卑怯かもしれませんが。
どれみちゃん達、あなた方は立派に魔女見習いを勤めました。
よって、今再び魔女になる事ができます』
女王の話は、どれみの質問の答えになっていない。 おんぷが何かを言いかけたとき、女王が手で制して続けた。
『いいですか、どれみちゃん達。
魔女になる、ということは、魔法を使える、という事と共に・・・
魔女の人生を生きることを誓約してもらわなけばなりません』
『・・・魔女の・・・人生?』
反復したどれみの声に頷き、女王は言う。
『ええ。 つまり・・・私達と同じ時を生きると言う事。
長い長い、寿命を持つという事なのです』
しばらく、5人は表情を変えられぬまま黙った。
『先々代女王の事件を肌で感じてきた貴方達なら、それがどういう意味かはわかるでしょう。
人間界において、数多くの死別を経験する事。
そして奇異の目を向けられてしまう苦難を、味わうことになるでしょう。
ですから、これは強制ではありません。
魔女になるかならないか。
それは、貴方達が自分で決めてください』
ポツン、と時の雫が沈黙の水面に波紋を打った。
どれみはみんなを振り返る。
はづき、あいこ、おんぷ、ももこは・・・ それだけで、頷いた。
『・・・女王様・・・ズルイよ』
どれみの小さな声に、女王は何も返答しない。
それは先にも述べたとおり、自分で分かっている。
『・・・でも、そういう事があるっていうのは、なんとなく分かってたから。
言われてみてやっぱりショックだけど、『ああ、やっぱり』っていうカンジで』
はづきが一歩進み、どれみに並んだ。
『確かに、お父さんやお母さん、そして自分の子供達の居なくなっていく様を経験するのは・・・
辛いです。 永遠の別れは辛いと思います。
でも、それは私達が人間の寿命を持っていたって、いずれは経験しなくてはならない事です』
あいこが一歩出る。
『アタシらは今回の事で色々分かった。
一時一時の別れは辛い。
せやけど、生きている限り、自分の胸の内に思い出は残る。
人はそういうんを積み重ねて、生きとるもんやって、なんとなく分かった』
おんぷが出る。
『それに、私達は一人じゃないもの。 みんないるもの。
みんなだけじゃない。 魔女界のみんなも。 そして、人間界のみんなも』
ももこがピョン、と飛び出した。
『人間界と魔女界が仲良くなれば、ヘンケンだってなくなるよ。
そうしようとして、みんな、今まで頑張ったんだからね。 ここで投げ出したら、怒られちゃうよ』
誰に。
そう、
『・・・ハナちゃんだって、きっとそれを望んでる。
そういう世界を作りたいからこそ、ああやってくれたんだと思う。
わたし達は、ハナちゃんの母親だから。
ハナちゃんが笑って暮らせる世界を作れるように、少しでも力になりたい。
だから、今はどうすればいいのか全然分からないけど・・・
一つだけ、ハナちゃんの為にやれること、分かってる。
それは』
全員の顔を確認して、どれみは頷いた。 女王に向き直る。
『ハナちゃんが起きた時、笑顔で迎えてあげられること。 何十年、何百年先のことでも。
わたしたちは、ずっと待っていたいから!』
そして。
どれみ達5人と、ぽっぷは・・・『魔女』になった。
我が子が目を覚ます、その時を夢見て。
ハナの見ている夢、叶えたいと思っている夢の一支えになれる事を決意して―。